※この記事内の画像等は、超絶!SNS内覧会にて許可を得て撮影しています。
三井記念美術館さんで開催中の『超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA』展の関連イベント、「超絶!SNS内覧会」に参加させていただきました。
2014年の『超絶技巧!明治工芸の粋
―村田コレクション一挙公開―』
2017年の『驚異の超絶技巧!―明治工芸から現代アートへ―』
につづく、三井記念美術館さんで開催される「超絶技巧」シリーズの第3弾です。
担当学芸員の方2名(すみません。お名前を失念しました)と、本企画の仕掛け人『青い日記帳』の主催・Takさん、そしてなんと飛び入りゲストで、本企画監修者で明治学院大学教授の山下裕二さんと、本展にも作品が展示されている木彫作家の福田亨さんを迎えて、作品についてのお話を聞きながらギャラリーをまわり、その後自由行動で鑑賞ができるという内容。さらに、この内覧会に限り、全作品写真撮影OKという太っ腹な企画です。
まずお出迎えしてくれたのは、本郷真也さんの作品《老犬 独歩》。思わず頭を撫でたくなってしまいます。本郷さんの作品は他にも幾つか展示されていますが、展覧会場に入口の反対側、7階の受付向かって左側にある《Visible01 境界》をお見逃しなく!骨格から筋肉、羽根、そして胃に残った異物までを金属で完全再現、それをCTスキャンしたものをモニターに映し出しています。超カッコイイです。うっかり見とれて、撮影を忘れてしまいました。(のっけから、この調子)
つづいて、「サイバー螺鈿」で有名な池田晃将さんの作品。《Artifact03》は大きな作品ですが、他の作品は小さいので単眼鏡必須です。
まさか螺鈿細工がこんなに近未来的な表現と相性が良いとは……、と、見るたびに思います。ただキラキラと綺麗なだけでなく、奥行きも感じるので、ずっと見ていると吸い込まれそうでちょっと怖いです。
白いコキアのような、もふもふ感もあるような、稲崎さんの《霧雨》、陶磁(焼きもの)作品です。この時点で何を見せられているのか。訳がわからないです。
さらに訳がわからない《Euphoria》。学芸員さんのお話では、「チェーンを手でつなげて、3年かけて、乾かしてから一発で焼く」とのこと。パーツをひとつひとつ作って繋げて、というのもすごく根気のいる作業だと思いますし、焼きものは焼くと縮むと聞きます。チェーンのように作ったからチェーンのように自在に動く(どなたかが「自在陶芸」と仰っていたように)、とはいえなんで焼きものがそんな風に動くのか。何を見せられて(魅せられて)いるのか。迷宮に入ったような感覚に襲われます。
内覧会飛び入りゲストの福田亨さんの作品。ポスターにも掲載されている《吸水》も凄いのですが、この《Niwa - カタクリ》も凄い。風がちょっとでも吹いたら、花は揺れ、蝶は飛び立ってしまいそうな、一瞬の静寂を切り取ったような静謐さを感じ、息を呑みます。
花や蝶の羽根の色は着色しているのではなく、その色の木を嵌め込んでいるそうです。また、蝶の羽根の部分に少し彫り跡を残しているのは、木彫であることを示すためだそう。ふわふわっとした鱗粉感を出しているのかと思ったら、そうではなかったようです。そして、台座部分は一木から彫り出した透かし彫り。影までもが静謐で美しいのです。
大竹さんの最新作はこの腕を模した作品のようです。「将来的には腕の部分に仕掛けを組み入れて、水の力で指が動く作品として完成させる予定。」の一文で俄然テンションが上がります。期待して待ってます!
ところで、会場入って最初のこの展示室は元食堂だったそうです。柱の木がとても良いものだそうで、今回参加されている木彫作家さんがお見えになった際に、「欲しい……」と、言ったとか、言わなかったとか。そんな展示室そのものにも注目です。
一見ただの壊れたブランコに見えますが、これ全部一木から彫り出したものだそうです。全部、ということは、ブランコのチェーンや朴の実も一つの木の塊から彫り出しつつ、座面(浮いているチェーンの下部分なども含めて)を平らにしているということです(よね?)。作者の前原冬樹さんは大学では油彩を学ばれていたそうで、一部油彩で着色されているとのことですが、そう聞いてはいても頭の中では、このブランコが辿った筈のない歴史に思いを巡らせてしまったり、自分の中にあるブランコの思い出やその時代の風景が、この作品を媒介にあたたかく、柔らかく蘇って来てしまうのです。
こちらは長谷川清吉さんの作品で、爪楊枝を真鍮で作ったもの。「なぜ爪楊枝?」という疑問とは関係なく、「500本入り(の容器を模したの)だけれども、500本は(入ら)なかった」というプチ情報が学芸員さんから。いや、それ、言われなければ気づきませんって。(とはいえ、屏風に描かれた細かいモブの人数を数える人もいるからなぁ。)
でも、真鍮製の爪楊枝、ちょっと使ってみたい気も……。
一見プラモデルのようにも見える小坂学さんの作品は、全て紙(ケント紙)で作られたペーパークラフト。ケーブルやダイヤル、細い針など、外側だけでなく中の部品まできっちり作られています。電源を入れたら、音が鳴りそう。
金槌を漆で再現した作品だそうです。若宮隆志さんは「彦十蒔絵」という分業型漆芸職人団体の頭領(棟梁?)さんだそうです。彦十蒔絵さんといえば思い出すのは、同じ三井記念美術館さんで以前開催された「小村雪岱スタイル ー江戸の粋から東京モダンへ」で展示された《苫舟 日本橋》の美しさ。今回は全く違う雰囲気の作品で、驚きました。モデルになった金槌は、最初に紹介した《老犬 独歩》や、この展示室にある龍《円相》の作者さんのものだそうです。持ち手の使い込まれている感じが凄いですよね。作家さん同士の交流が垣間見えるのも素敵です。
吉田泰一郎さんの《三毛猫》と《粗》。こちらはセット作品ではなく、学芸員さんの茶目っ気で配置されています。思わず、「あっ!(食べたな)」と声が出てしまいそうな距離感とポーズが微笑ましいです。鏨を使って加工した金属片を、FRP(と、仰っていたかな?)に突き刺して作られているとのことで、その一部が持ち上がっていたり、棘のように出ていることで、猫の毛の質感や心理状態までもが見事に表現されているように感じます。
吉田さんの作品といえば、金沢の国立工芸館で開催された『ポケモン×工芸展 ー美とわざの大発見ー』のイーブイたちが記憶に新しいです。残念ながら会場には行けず、TV放映でしか拝見していないのですが、現在アメリカで開催中の同展は来年には凱旋帰国の予定とのことで、こちらも楽しみです。
令和の世に、このような競演が見られるとは!左は明治時代の作家・安藤緑山さんの《松竹梅》、右は現代の作家・岩崎努さんの《竹の子》です。岩崎さんの《竹の子》は、楓の木を使っているそうで、安藤さんの方は素材の記載がないので牙彫(象牙の彫刻)なのか木材なのかわかりませんが、同じようなモチーフを同じような手法で作られた作品が、こんな風に並んで展示されているのを実際に見られる。貴重な経験です。
安藤さんといえば、前回(かな?)の展覧会の時に、子孫の方から三井記念美術館さんに連絡があったそうで、そのご縁で「本名は『安藤緑山』ではない」などのヒアリングができ、研究が一歩進んだのだそうです。
安藤さんといえば、前回(かな?)の展覧会の時に、子孫の方から三井記念美術館さんに連絡があったそうで、そのご縁で「本名は『安藤緑山』ではない」などのヒアリングができ、研究が一歩進んだのだそうです。
もうひとつの競演が、こちら。明治時代の漆芸家・白山松哉さんの《羽根蒔絵茶器》と、現代の漆芸家・樋渡賢さんの《羽根蒔絵大棗》。漆は粘りがあるので細い線は描きづらいそうで、学芸員さん曰く「白山松哉の描く羽根蒔絵はもはや『ロスト・テクノロジー』ではないか」と、紹介したところ、「人間国宝の室瀬和美さんの所にいらっしゃいますよ」と、教えていただいて、本展に登場されることになったそうです。わずか1mmの幅に線を10本引けるという驚異の技をお持ちだそうです。今回は3点展示されていますが、他の作品も是非拝見したいです。
なお、上記画像の右側《羽根蒔絵大棗》は、館内備え付けの拡大鏡越しに撮影しています。この拡大鏡+単眼鏡なら、羽根の一本一本が見えるかも?
三井記念美術館さんには、「如庵」という茶室の室内を再現したコーナーがあり、茶道具などがよく展示されているのですが、今回ここに展示されているのは、松本涼さんの《涅槃》。枯れゆく大菊を入滅する釈迦の姿に見立てた作品だそうです。素材は樟。
とても繊細で儚い風情が、茶室にぽつんと置かれている様子と相まって、胸にグッと響きます。とても印象的でした。
印象的といえば、こちらも。惜しくも昨年逝去されました青木美歌さんの《あなたと私の間に》。ガラスでできた作品です。作品もさることながら、その美しい影も展示したいということで、展示室6をまるっと使って展示されています。この展示室が小さいこともあってできた空間だそうですが、そのために近づいて見ることはできません。展示室の入口から、暗闇に浮き上がる姿と、床と天井の両方に映し出される影、その幻想的な姿はため息ものです。
影を入れるとこんな感じ。(下手くそ写真選手権ものの撮れ方で申し訳ない)
なお、この作品は会期中写真撮影OKです。曜日や時間帯によっては、行列ができるくらい人気があるそうなので、念の為時間に余裕を持って来館されると安心かもしれません。
明治工芸エリアにあったので、てっきり当時をイメージしたレトロな白黒写真かと思いきや、水墨画なのです。山口英紀さんの《日本三名爆ー華厳の滝》。岩のゴツゴツとした質感や流れ落ちる滝の表現のみならず、水しぶきやピンボケまで、全て描かれているのだそうです。近くで見ても、遠くから眺めても、もうどうなっているのかさっぱりわからず。まさに、「超絶技巧」です。
なお、ここで紹介した以外にも切り絵や刺繍など、現代作家さんの凄い作品が展示されていますので、お見逃しなく!(上手く撮影ができなかったので、やむなく割愛。ごめんなさい)
ここからは明治工芸ターンです。
明治工芸といえば、Wナミカワ。並河靖之さんと濤川惣助さん。
上の画像は並河靖之さんの作品。漆黒の中に浮き立つ紅葉や金木犀などの草花が本当に美しい。植物ごとに葉の色が違ったり、その葉の一枚一枚に至るまで微妙に色を変え、陰影をつけていたりと、ものすごく細やかです。
こちらはもう一人のナミカワ、濤川惣助さんの作品。無線七宝で表現された月や、鴨の水面上の部分は有線七宝でくっきりと描く一方、水面下の足などは無線七宝でぼかすことで水の存在を表現したり、上手いなぁ、綺麗だなぁ、と惚れ惚れしていたんですが、鴨の横の落款(渡辺省亭のものを模しているそうです)まで七宝で作られているそうです。明治工芸、おそるべし。
濤川惣助さんの作品をもうひとつ。《菖蒲図大皿》です。こちらも無線七宝で作られたそうですが、筆致を生かした西洋画とか、印象派のようにも思えて、ビックリしました。
《栗置物》。焼きものだそうです。作者不明とのことですが、こちらも本物っぽくて凄いですよね。栗のトゲトゲまできっちり表現。触ったら、痛そう。
とっても大好き、柴田是真さんの作品です。金属や墨、木のように見せかけた漆塗、「変塗(かわりぬり)」が有名で、凄い技術なのですが、こちらはそのひとつ、青銅塗だそう。確かに、ぱっと見は漆というより金属っぽい光り方をしていました。写真では上手く撮れなかったので、目に焼き付けることしかできなかったのですが、「青海波塗」も凄かったです。隣にあるお弟子さんとの合作とともに、オススメです。
ということで、三井記念美術館さんで、開催中の特別展『超絶技巧、未来へ!』の「超絶!SNS内覧会」の様子でした。Takさん、山下裕二さん、福田亨さん、案内いただいた学芸員さん、そしてその他スタッフの皆さま、お忙しい中、本当にありがとうございました。
展覧会名 :特別展『超絶技巧、未来へ!』
開催場所 :三井記念美術館
会 期 :2023年9月12日(火)から2023年11月26日(日)まで
開館時間 :10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休 館 日:月曜日
9月18日、10月9日は開館、9月19日(火)、10月10日(火)はお休み
入 館 料:一般1,500円、大学・高校生1,00円、中学生以下は無料
(リピーター割、70歳以上の方等に対する割引あり)
詳細は三井記念美術館さんの公式サイトをご確認ください。
おまけ。内覧会に参加したら、図録いただきました。こちらもありがとうございます。
おまけその2。
本展覧会は、今後以下へと巡回されるそうです。
本展覧会は、今後以下へと巡回されるそうです。
富山県水墨美術館:2023年12月8日〜2024年2月4日
山口県立美術館 :2024年9月12日〜11月10日(予定)
山梨県立美術館 :2024年11月20日〜2025年1月30日(予定)
Last update : 2023.10.12